AIの自動化を売る人たちと、現場でAIに向き合う僕らの温度差
最近、Facebookを見ていると、AIを使った営業や集客の自動化をうたう広告がやたらと目につく。
- AIエージェントが24時間働く
- 営業も集客も完全自動化
- AIを導入するだけで売上が劇的に改善
中には、赤字だった事業が数千万円規模の売上を達成したという、派手な成功事例まで出てくる。
そして、その仕組みを構築するためのテンプレートやノウハウを提供するという。
こういう広告を見るたびに思う。
まーあかん。そんなに簡単な話じゃないだろう。
僕はAIを否定しているわけではない。
むしろ、毎日のようにAIを使い、仕事の中でその可能性を感じている側の人間だ。
だからこそ、AIという技術を安易な成功物語にして売ることに、強い違和感がある。
AIエージェントは確かにすごい。でも万能ではない
AIエージェントは、これまでのチャット型AIから一歩進んだ仕組みだ。
指示に従って文章を作るだけでなく、情報を調べたり、複数のツールを使ったり、
一定の判断をしながら作業を進めたりできる。
例えば、顧客情報の整理、営業メールの下書き、Webサイトの更新支援、アクセス解析、
社内資料の作成など、活用できる場面は多い。
僕自身も、AIを使ってWebサイトを制作したり、データを分析したり、プログラムを書いたりしている。
以前なら何時間もかかっていた作業が、短時間で進むことも珍しくなくなった。
でも、現実はそれだけではない。
こちらの指示を理解したように見えて、まったく違う結果を返してくることもある。
修正をお願いすると、今度は正常だった部分まで壊してしまうこともある。
一度うまく動いたからといって、次も同じように動くとは限らない。
だから、結果を確認し、修正し、また試す。その繰り返しだ。
AIを使えば仕事がなくなるどころか、AIが正しく仕事をしているかを確認するという、新しい仕事まで生まれている。
少なくとも、今の現場はそうだ。
テンプレートを配れば、誰でも営業が自動化できるのか
最近は、AIエージェントを構築するためのテンプレートを配布し、
それを使えば営業や集客を自動化できると紹介する広告もある。
もちろん、テンプレートそのものには価値がある。
複雑な仕組みを一から作らなくても、一定のところまで動かせるのだから、技術を学ぶうえでも便利だと思う。
でも、テンプレートを動かすことと、実際の商売で成果を出すことは、まったく別の話だ。
会社によって商品も違えば、顧客も違う。営業方法も、これまで積み重ねてきた信用も違う。
本当に考えるべきこと
- どんな相手に、何を伝えれば興味を持ってもらえるのか
- どんな情報を発信すれば、問い合わせにつながるのか
- なぜ、その会社の商品やサービスを選んでもらえるのか
そこを理解しないまま、AIに営業メールを大量に送らせたり、
ブログ記事を自動生成させたりしても、成果が出るとは限らない。
むしろ、相手にとって迷惑な営業を大量生産することにもなりかねない。
本来、営業や集客で一番難しいのは、メールを書くことでも、記事を作ることでもない。
そこを飛ばして「営業を完全自動化」と言われても、僕にはどうしても納得できない。
AIの技術ではなく、成功への期待を売っていないか
ここで誤解してほしくないのは、AIに関する教材やサービスを販売すること自体を
批判しているわけではないということだ。
技術を教えることにも、導入を支援することにも、当然価値がある。
僕らだって、ITの知識や経験を仕事にしている。
ただ、問題はその売り方だと思う。
「この仕組みを使えば、こんな業務が効率化できます」
「この仕組みを使えば、売上が何千万円にもなります」
この二つでは、受け取る印象がまるで違う。
実際に売上が伸びた企業があったとしても、その成果がAIだけによるものなのかは慎重に考える必要がある。
もともとの商品力、営業力、広告費、顧客基盤、経営者自身の努力。
売上には、さまざまな要素が関係している。
それをAIの成果として強調し、誰でも同じように成功できるかのように見せてしまう。
それは技術を売っているというより、
成功への期待を売っている
ように感じる。
そして、その期待が裏切られたときに傷つくのは、AIという技術そのものへの信用だ。
そのうち、AIエージェントはパソコンの標準機能になる
もう一つ、最近考えていることがある。
今はAIエージェントを使うために、専用のサービスを契約したり、プログラムを組んだり、
外部のツールを連携させたりする必要がある。
でも、この状態がいつまでも続くとは思えない。
すでにパソコンやスマートフォンにはAI機能が組み込まれ始めている。
この先、AIエージェントがOSの標準機能として搭載されるようになっても、不思議ではない。
例えば、こんなパソコンが当たり前になるかもしれない。
パソコンを買って電源を入れるだけで、AIがメールや予定を整理し、必要な資料を用意してくれる。
顧客とのやり取りを把握して、次に連絡するべき相手を提案する。
ホームページのアクセス状況を分析し、改善したほうがよいところを教えてくれる。
請求書の発行漏れや、対応していない問い合わせを知らせてくれる。
もちろん、こうした機能を安全に使うには権限管理や情報保護などの課題がある。
それでも、今は特別な仕組みとして売られている機能が、
いずれ誰でも使える当たり前の機能になる可能性は十分にあると思し
遠い未来ではないと思う。
かつて、ワープロや表計算ソフトを使いこなすことが特別な技能だった時代がある。
今では、それらは仕事の道具として当たり前に使われている。
AIも、同じような道をたどるのではないだろうか。
そう考えると、今、AIエージェントのテンプレートを特別な成功の秘訣として売っていることにも、少し違った見方ができる。
技術そのものが普及すれば、テンプレートを持っていることだけでは差別化できなくなる。
そのとき、本当に価値が残るのは何だろう。
AIが当たり前になっても、企業の課題はなくならない
僕は、AIが普及すればIT支援の仕事がなくなるとは思っていない。
むしろ、仕事の中身が変わっていくのだと思う。
例えば、AIがホームページを自動で更新できるようになったとしても、何を伝えるべきなのかは考えなければならない。
AIが営業先を探せるようになっても、どんなお客様と取引したいのかは会社が決める必要がある。
AIが業務を自動化できるようになっても、そもそもその業務が必要なのか、もっと良い方法がないのかを考えることは残る。
会社がやるべきことは同じではない。
そして、中小企業にはITの専門担当者がいないところも多い。
新しい技術が出てくるたびに、それを自分たちの仕事にどう取り入れるべきか悩んでいる。
だからこそ、会社の仕事を理解して、一緒に考えられる人間が必要になる。
AIを設定することよりも、AIを使って何を改善するのか。
そこに、これからのIT支援の価値があると思っている。
僕らが売りたいのは、AIという道具ではない
売れるITサービス社でも、AIを使ったWeb制作や業務改善、情報発信の支援に取り組んでいる。
でも、僕が売りたいのはAIという道具ではない。
お客様が困っていることを解決することだ。
- パソコンの調子が悪ければ直す。
- ホームページがうまく機能していなければ改善する。
- 業務に無駄があれば、もっと良い方法を考える。
そのためにAIが役立つなら使うし、従来の方法のほうが適しているなら、そちらを選ぶ。
AIを使うこと自体が目的になってはいけない。
これは、AIが登場する前から変わらない考え方だ。
何を導入するかよりも、誰と一緒に考え、誰が最後まで面倒を見るのか。
そこが大切なのだと思う。
AIの未来に期待しているからこそ
僕は、AIの進化を楽しみにしている。
この数か月だけでも、できることは驚くほど増えた。
これから先、今では考えられないような仕事までAIがこなすようになるかもしれない。
だからこそ、今の段階で「誰でも簡単に成功できる」「営業も集客も完全自動化」といった言葉ばかりが
先行することに、違和感がある。
AIを本当に普及させたいのであれば、できることだけでなく、できないことも伝えるべきだ。
便利な部分だけでなく、導入後の苦労やリスクも説明するべきだ。
そうした現実を伝えずに、成功への期待ばかりを売ってしまえば、結局はAIへの不信感を広げることになりかねない。
そして、僕らのように現場で試行錯誤しながらAIを活用している事業者まで、同じように見られてしまう。
それが何より残念だ。
いつか、AIエージェントがパソコンに最初から入っている時代が来るかもしれない。
そのとき、今のような派手な宣伝は必要なくなるのだろうか。
いや、きっとまた別の新しい言葉で、同じような商売が出てくるのかもしれない。
技術が変わっても、商売の本質はそう簡単には変わらない。
だから僕は、流行の言葉に振り回されず、目の前のお客様の仕事を少しでも良くすることを考えていきたい。
AIを売ることと、
AIでお客様の役に立つことは違う。
その違いを、これからも大切にしていきたい。
