連載|地方企業のリアルIT相談室 第55回
AI時代に、分課分掌をもう一度考える
昨日は新月でした。
神棚の水を替えながら、何となく気持ちをリセットするような朝。
そんな日にニュースを見ていると、AIを使える社員に手当を出す会社や、
AIの活用を人事評価に取り入れる会社がある一方で、
「うちはAI禁止です。」
という会社もある。
まあ、その気持ちも分かります。
情報漏えいは怖いし、AIが作った間違った資料を
そのままお客様へ出されたら困る。
だから禁止する。
経営者としては当然の判断かもしれません。
でも、本当に禁止すれば安全なんでしょうか。
今は検索も、メールも、スマートフォンも、
知らないうちにAIが使われています。
本人はAIを使っているつもりがなくても、
実際にはAIの恩恵を受けている。
そんな時代です。
それなのに、
「生成AIは禁止。」
だけでは、現場は何がよくて何が駄目なのか分かりません。
文章の下書きはいいのか。
議事録は駄目なのか。
お客様の名前を消せばいいのか。
有料版ならいいのか。
そこが決まっていなければ、結局は個人のスマートフォンや
個人アカウントで使われるだけです。
禁止したことで、会社から見えなくなる。
僕は、そのほうが怖いと思っています。
昔に戻せば、安全になるのか
最近は、
「クラウドは危ないから社内サーバーへ戻そう。」
「デジタルは不安だから紙に戻そう。」
そんな相談を受けることも増えました。
でも、それで安全になるのでしょうか。
サーバーも古くなります。
パソコンも古くなります。
セキュリティソフトが入っていても、
ハードウェアの老朽化という別のリスクがあります。
紙だって紛失します。
持ち出されます。
探すのにも時間がかかります。
結局、
「あの人しか分からない。」
そんな仕事が増えていく。
それは安全になったのではなく、属人化しただけです。
昔、厳しく教えられた分課分掌
僕らが若い頃は、部長や役員から
「分課分掌」を本当に厳しく教えられました。
誰が担当するのか。
誰が確認するのか。
誰が承認するのか。
問題が起きたら誰が判断するのか。
当時は、
「面倒くさいな。」
そう思っていました。
でも今になると、その面倒くささには
意味があったんだと分かります。
一人の判断だけで仕事を進めない。
担当者一人へ責任を押し付けない。
会社として確認し、会社として決める。
そのための仕組みだったんですね。
「教えてもらっていないので、やっていません」
最近、現場で少し気になることがあります。
「そこまでは教えてもらっていないので、やっていません。」
「1から10まで説明されていないので分かりませんでした。」
そんな言葉を聞くことが増えました。
僕らの世代からすると、
「そこは自分で考えようよ。」
と思ってしまいます。
僕らが若い頃は、1から10まで教えてもらうことなんてありませんでした。
最初に少しだけ教えてもらい、あとは先輩を見ながら覚える。
失敗して怒られる。
分からなければ聞きに行く。
今思えば、かなり乱暴な育て方だったと思います。
一方で、ゆとり世代やZ世代と呼ばれる人たちは、
「どこまで自分が判断していいのか。」
「どこから相談すればいいのか。」
「何をもって終わりなのか。」
そこを最初に知りたい人が多いように感じます。
勝手に判断して怒られるくらいなら、
言われたことだけをやる。
そう考えるのも理解できます。
でも、
「教えてもらっていません。」
で止まってしまうのも違うと思います。
会社は学校ではありません。
先輩や上司が1から10まで教え続けることもできません。
分からなければ聞く。
気付いたら確認する。
自分なりに考えてみる。
それも仕事の一つです。
逆に会社も、
「自分で考えろ。」
だけでは駄目です。
どこまで任せるのか。
どこから相談するのか。
誰が確認するのか。
最後は誰が責任を持つのか。
そこだけは会社が決めなければいけません。
AIにも、任せてよい範囲がある
これはAIも同じです。
どのAIを使っていいのか。
何を入力していいのか。
誰が確認するのか。
どこから上司へ相談するのか。
そのルールがなければ、
「AIは禁止。」
「AIを使え。」
と言っても、現場は混乱するだけです。
性善説か、性悪説か
最近、この話は性善説と性悪説に
少し似ているなと思うことがあります。
社員はちゃんと考えて行動してくれる。
AIも正しく使ってくれる。
そう信じるのは性善説です。
反対に、
人は思い込みをする。
悪気がなくてもミスをする。
AIも間違える。
だから確認する人を置く。
だから責任を分ける。
だからルールを作る。
これは人を疑うためではありません。人を守るためです。
僕はシステムを作っていた頃から、
ずっとそう教えられてきました。
人を信用しないのではない。
人は誰でも間違える。
だから事故が起きても大丈夫な仕組みを作る。
それが会社なんだと。
AIを禁止したから安心。
紙に戻したから安心。
若い人だから。
ベテランだから。
どれも、それだけでは会社は守れません。
人を信じることと、仕組みを作ることは別です。
AI時代だからこそ、人に頼り切るのでも、
AIに頼り切るのでもない。
誰が考え、誰が確認し、誰が責任を持つのか。
昔教わった分課分掌という考え方は、
今だからこそ、もう一度見直す価値があるのかもしれません。
