この連載も、今回で70回になりました。
よくここまで書いたなと思います。
ITの話を書いてきたつもりだったんですが、振り返ってみると、
ツールの話より、人の話の方が多いんですよね。
パソコンが動かない。
メールが送れない。
ホームページでトラブルが起きた。
AIをどう使えばいいのか分からない。
入口はITでも、その向こう側にいるのは人です。
困っている人がいて、どうすれば元に戻せるのかを一緒に考える。
僕が長くやってきた仕事って、結局そこなんだと思います。
失敗しないように、ツールは進化してきた
今のITツールは、本当によくできています。
昔なら設定を一つ間違えただけで動かなくなったようなものでも、
今は自動で設定してくれる。
入力を間違えれば教えてくれる。
保存もしてくれる。
バックアップもしてくれる。
分からなければ検索できるし、今ならAIに聞けば手順まで出てくる。
失敗しないように、どんどん便利になっています。
それは悪いことではありません。
僕だって便利なものは使います。
でも最近、少し気になることがあります。
「失敗やミスをしたことに気づかないまま通り過ぎる」
ことが増えていないか。
ちょっとしたミスをしても、ツールがうまく吸収してくれる。
本人も気づかない。
周りも気にしない。
その場で問題が起きなければ、そのまま仕事は進んでいく。
でも、小さなミスがなくなったわけではないんですよね。
見えなくなっているだけ。
それが一つ、二つ、三つと積み重なって、
ある日、大きな障害やトラブルになって表に出てくる。
しかも今は、昔とは少し事情が違います。
以前なら社内やお客様との間で収まっていたようなミスでも、
今はSNSで一気に広がることがある。
場合によってはネットニュースにまで取り上げられる。
だからこそ、「絶対に失敗するな」と言いたくなるのも分かります。
でも、それだけでは人は育たないと思うんです。
僕を育てた「鬼軍曹」
僕が若い頃は、今みたいに便利ではありませんでした。
そして僕には、今でも忘れられない「鬼軍曹」がいました。
とにかく厳しい。
「なぜ?」
「それはなぜ?」
「本当にそれでいいのか?」
簡単には終わらせてくれません。
設計書を書いても戻ってくる。
テスト仕様書を書いても戻ってくる。
自分では十分に考えたつもりでも、また考え直させられる。
当時は、
と思ったことも何度もありました。
でも今になって思えば、あれで育ててもらったんですよね。
鬼軍曹が教えてくれたのは、答えではありませんでした。
自分で考えること。
おかしいと思ったら立ち止まること。
失敗したら、なぜ失敗したのかを考えること。
そして、自分の仕事に責任を持つこと。
「思いっきり失敗しておいで」
僕もスタッフを持つようになってから、
よくこんなことを言っていました。
だから、
とも言っていました。
これは、好き勝手にやってこいという意味ではありません。
僕が後ろで見ている。
何かあれば僕が出る。
最後は僕が何とかする。
その安心感があるからこそ、
思い切って仕事ができると思っていたんです。
初めて一人でお客様のところへ行けば、不安になるのは当たり前です。
間違えたらどうしよう。
聞かれて答えられなかったらどうしよう。
トラブルになったらどうしよう。
そんなときに、
と言ったら、怖くて何もできなくなります。
だから僕は、
という気持ちで送り出していました。
自分で考えて、やってみる。
そこで失敗する。
「あれ、おかしいな」と気づく。
原因を考える。
どうすれば戻せるのかを考える。
分からなければ相談する。
それでも難しければ、最後は僕が出る。
その安心感があるから、挑戦できる。
失敗できる。
そして、その失敗から学べる。
僕はそこまで含めて「任せる」なんだと思っています。
だから、僕自身でどうにもできないような仕事を、
いきなりスタッフに任せることはしませんでした。
何かあったときに、最後は自分が責任を持つ。
その覚悟があるから任せられるんです。
スタッフを育ててくれたのは、お客様でもあった
そして、そんなふうにスタッフを外へ出せたのは、
僕一人の力でもありませんでした。
お客様との関係があったからです。
担当者や社長と長く付き合って、人間関係ができていた。
だから、お客様の側も、
そんな気持ちで接してくれていたと思います。
単なる発注先、受注先という関係ではなかったんですよね。
僕のスタッフを少し預かるくらいの気持ちで接してくれた。
間違っていれば教えてくれる。
ちょっとした失敗なら、その場で声をかけてくれる。
本当にまずいことになりそうなら、僕に連絡をくれる。
スタッフからすれば、お客様も見てくれている。
そして、その後ろには僕もいる。
そういう中で仕事ができた。
だからこそ、思い切って挑戦できたんだと思います。
僕自身も、お客様に育ててもらった
僕自身もそうでした。
バブルの頃、若かった僕も、本当にいろんな人にお世話になりました。
失敗もしました。
怒られもしました。
恥ずかしい思いもしました。
それでも仕事をさせてもらって、教えてもらって、助けてもらった。
会社の先輩だけではありません。
お客様にも育ててもらいました。
今になって思うと、昔は会社の中だけで
人を育てていたわけじゃなかったんですよね。
先輩がいて、お客様がいて、取引先がいて。
いろんな大人が若い人を見ていた。
失敗すれば、誰かが気づく。
間違っていれば、誰かが言う。
困っていれば、誰かが手を差し伸べる。
そして本人も、
という安心感の中で仕事ができた。
怖いのは、失敗することじゃない
今は、そのあたりも少し変わってきたように感じます。
失敗やミスに本人が気づかない。
周りも気にしない。
ツールも何とかしてくれる。
だから、そのまま通り過ぎてしまう。
「失敗したことに気づかない」
ことの方が怖いと思っています。
失敗すれば、考えることができます。
なぜこうなったのか。
どこで間違えたのか。
どうすれば戻せるのか。
次はどうすればいいのか。
それを考えることが、次につながります。
だから僕は、若い人には小さな失敗をしてほしい。
失敗させないように何でも先回りしてしまうのではなく、
まずやってみる。
失敗する。
考える。
戻す。
そして、またやってみる。
その経験をしてほしいと思っています。
失敗しても、後ろには誰かがいる
ただし、そのためには、任せる側にも責任があります。
「失敗していいよ。」
と言うだけでは駄目なんです。
失敗したときに、
と言える人が後ろにいること。
僕は、それが大事だと思っています。
僕がスタッフに伝えたかったのも、
「失敗してもいい。」
だけではありませんでした。
だったんです。
失敗させないことが、必ずしも優しさではない。
かといって、失敗した人を放っておくのも違う。
やらせてみる。
考えさせる。
失敗もさせる。
でも、最後はちゃんと見ている。
僕自身が、鬼軍曹や先輩、お客様にそうやって育ててもらったからこそ、
今度は自分がそういう立場でいたいと思っています。
最後に大事なのは、やっぱり人
便利な時代になりました。
ツールはこれからもっと便利になるでしょう。
AIも、もっと賢くなると思います。
だからこそ、これから必要なのは、
失敗しない人ではなく、
失敗に気づける人。
失敗したときに戻れる人。
困ったときに「困った」と言える人。
そして、誰かが失敗したときに、
と言える人。
そんな人なんじゃないかなと思います。
70回書いてきて、改めて思います。
ITの仕事で最後に大事なのは、やっぱりツールじゃない。
人なんですよね。
