連載|地方企業のリアルIT相談室 第52回

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DXも終わっていないのに、
もう「日本AX」なのか。

先日、政府から第2期「AI基本計画」の案が発表されました。

そこで出てきたのが、「日本AX」という新しい言葉です。

バーティカルAI、フィジカルAI、AIトランスフォーメーション、信頼できるAI。

読んでいて、正直うんざりしました。

また新しい言葉を作ったのか、と。

AIを使って行政や産業、暮らしを変え、日本を強く豊かにするそうです。

国としてAIへ投資することは必要だと思います。

海外に遅れないように研究開発を進めることも、国産の技術を育てることも必要でしょう。

でも、その前にやることがあるだろう。

DXも、まだまともにできていません。

行政でも企業でも、紙の書類は残っています。

同じ情報を何度も書き、Excelをメールで送り、印刷して確認し、印鑑を押して、
それをまた誰かが入力しています。

システムを入れたのに、紙も残っている。

手間を減らすために入れたはずなのに、紙とデータの両方を管理する仕事が増えている。

それでも「DXを進めました」ということになっています。

紙に印鑑を押しているのに、次はAI

僕は自治体の仕事に関わることもあります。

そこで今も目にするのが、紙の書類と押印です。

住民が行政へ出す書類だけではありません。

自治体から国や県などへ提出する書類でも、紙に印刷して印鑑を押して出しているものがあります。

その行政が、「まずは行政から日本AXを始める」と言っています。

紙に印鑑を押しているのに、次はAIです。

さすがに順番が違わないかと思います。

AIに書類を読ませる前に、なぜその書類が今も紙なのか。

AIに押印を確認させる前に、その印鑑は本当に必要なのか。

AIで仕事を速くする前に、その仕事自体を今も続ける必要があるのか。

まずは、途中で止まったままのDXを何とかする。
話はそこからじゃないでしょうか。

端末を配ることと、情報教育は違う

人材育成についても同じです。

今回の計画には、AI人材を育てると書かれています。

でも、その土台になる小中学校の情報教育は、十分にできているのでしょうか。

一人一台の端末が配られ、授業でタブレットやパソコンを使うようになりました。

でも、端末を配ることと、情報を扱う力を育てることは違います。

検索して出てきた情報が正しいのか。

個人情報を外部のサービスへ入力してもよいのか。

パスワードをどう管理するのか。

AIが出した答えを、そのまま信じてよいのか。

そういうことを、小中学校の頃から教える必要があります。

学校や先生によって差があり、端末を使うところで止まっているのに、
その先では高度なAI人材を育てると言う。

ここでも、話が飛んでいるように感じます。

大手が担うことと、大手だけで考えることは違う

そして、大きな予算が付けば、その仕事は大手企業が担うことになるのでしょう。

ただ、僕は大手企業が仕事を受けること自体を悪いとは思っていません。

国全体で使う仕組みや、大規模なシステムを作る仕事を、いきなり僕たちのような
小さな会社へ任されてもできません。

人も足りないし、資金もない。

長く運用していく体制も、大きな事故が起きたときに責任を負う力もありません。

大きな仕事を大手企業が担うことには、ちゃんと意味があります。

でも、作る前に現場の話を聞いてほしい。

僕が言いたいのは、それだけです。

大手が作ることと、大手だけで考えることは違います。

自治体で実際に手続きをしている人。

学校で子どもたちを教えている先生。

地方の中小企業で、毎日Excelや紙と格闘している人。

そういう会社を回り、パソコンやネットワーク、古いシステムの相談を受けている僕たち。

仕組みを決める前に、そういう人たちから一度くらい話を聞いてほしいのです。

なぜ紙と印鑑が残っているのか。

なぜ導入したシステムが使われなくなったのか。

なぜDXが途中で止まったのか。

現場には、すでに答えの材料があります。

今回の計画も、大学の先生や研究者、大手企業の経営者、行政の幹部など、
とても賢い人たちが集まって考えたのでしょう。

それなのに、出てきたのが「日本AX」です。

これだけ賢い人たちが集まって、いったい何を話していたのだろう。

正直、そう思ってしまいます。

僕たちに大きな仕事をくださいと言っているわけではありません。

大きなシステムを作らせてくれと言っているわけでもありません。

ただ、最初に現場の話を聞いてほしいのです。

大手のコンサルティング会社が計画を作り、大手のシステム会社が受注する。

地域の事業者へ仕事が回ってきた頃には、仕様も進め方も決まっています。

そこで「この手続きは、もうやめた方がいい」と気付いても遅い。

「そのシステムでは、現場は使わない」と言っても変わらない。

そして完成した後に、こんな話になります。

「使いにくい」

「前の方が早かった」

「結局、紙も残さなければならない」

DXでも、何度も見てきたことです。

補助金を取ることが目的になっていく

そこへ、今度はAI導入の助成金や補助金が出てくるのでしょう。

そうなれば、その周りにコンサルタントや診断士が集まります。

「この補助金が使えます」

「AIを導入する計画を作りましょう」

「申請に必要な事業計画書を作ります」

そんな話が始まります。

会社が何に困っているのかより、補助金で何を入れられるのか。

現場の仕事をどう変えるのかより、どうすれば採択されるのか。

いつの間にか、目的が入れ替わっていきます。

立派な計画書ができて、補助金が採択され、システムが入る。

そこで事業は完了です。

でも、現場はそこからです。

社員が使えなければ、教えなければならない。

仕事に合わなければ、直さなければならない。

問題が起きれば、原因を調べなければならない。

セキュリティに問題があれば、すぐに対応しなければならない。

その頃には、計画書を作った人もシステムを入れた会社も、次の案件へ移っています。

そして、使われないシステムと毎月の利用料だけが残る。

困った会社から、最後に僕たちへ相談が来ます。

融資の評価にも「AI」と「DX」が並ぶ

こうした計画は、銀行融資の評価にも使われます。

DXに取り組んでいる。

AIを導入する計画がある。

補助金に採択された。

専門家と事業計画を作った。

書類だけを見れば、前向きな会社に見えるでしょう。

でも、その仕組みが本当に現場で使えるのか。

毎月の費用に見合う効果があるのか。

数年後も使われているのか。

そこまでは、計画書だけでは分かりません。

政府が方針を作る。

大手企業がシステムを作る。

コンサルタントや診断士が計画書を作る。

補助金が採択され、銀行もその計画を評価する。

書類の上では、全部うまく進んでいるように見えます。

でも、実際に使う現場だけが置いていかれる。

僕がうんざりしているのは、「AX」という言葉そのものではありません。

DXでうまくいかなかったことを振り返らないまま、新しい名前を付けて、また同じことを始めようとしているように見えることです。

DXは、なぜ現場まで届かなかったのか。

作ったシステムは、今も使われているのか。

大きな予算を使って、働く人の負担は本当に減ったのか。

まずは、それを現場へ聞いてほしい。

AIで日本を変えるという話は、
その後でいいと思います。