■ おやじが遺してくれた田んぼ、そして春の土のにおい
16年前、おやじが亡くなった。
遺されたのは、相続した田んぼと畑。
広い財産ではないけれど、確かな重みのあるものだった。
子どもの頃、農作業は正直好きじゃなかった。
遊びたい気持ちを押さえつけられて田んぼに出される日々。
でも──
春になると行う最初の田おこしで嗅ぐ土のにおいだけは、なぜか今も忘れられない。
あのにおいが、農業に向き合う自分の原点だったのかもしれない。
■ 家業を継ぐ決意は自然なものだった
おやじが亡くなったとき、自分がやるしかないと思った。
すぐに田んぼに戻り、農業を継いだ。
当時はIT業界で働いていたが、迷いはなかった。
田んぼの景色や土の感触が、心の奥底に染みついていたのかもしれない。
あれから16年。
かつて苦手だった作業も、今では自然と体が動くほどに身についている。
■ 農業は人の暮らしの根っこ
田んぼに向き合う日々の中で実感したのは、
農業が人間の暮らしの根っこにあるということ。
水を張り、苗を植え、稲を育て、収穫する。
そのすべての工程が、「食べる」ことの尊さにつながっている。
非効率で地味で、自然相手だから思い通りにならない。
でも、そこにこそ人間らしい手ごたえがある。
■ テクノロジーが開く農業の未来
ITの知識を農業に持ち込むことで、
日々の作業を少しでも楽に、見える化できるよう仕組みを考え、
支援先で導入支援を行っております。
- ChatGPTで作業記録を整理
- Notionでスケジュールや収穫記録を管理
- 天気予報と連動したタスク計画
- ドローンや画像解析による稲の状態チェック
自然のリズムにテクノロジーを添える──
これが、現代の農業のひとつの形だと信じている。
■ 還暦を前にして感じる農業の意味
還暦まであと2年。
人生の節目が近づいてくる中で、あらためて感じる。
あの田んぼは、命を支え、地域をつないできた場所だった。
おやじが黙って遺してくれた意味を、ようやく自分の体と心で理解できるようになってきた。
■ 次の代へバトンタッチできるように
春になると行う最初の田おこしで嗅ぐ土のにおい──
かつては何気なく感じていたそれが、
今では自分の誇りであり、歩んできた証だ。
「おやじ、ありがとう。農業の大切さ、ちゃんとわかってきたよ」
そんな思いを胸に、次の代へしっかり受け継げるようにしていきます。