地方企業のリアルIT相談室 第59回

社員を疑うから、社長も疑われる。
AI禁止の前に考えたいこと

情報漏えいや誤回答が心配だから、生成AIを禁止する。
でも、本当に心配しているのはAIではなく、社員なのかもしれません。

今日は大暑です。

一年で最も暑さが厳しくなる頃だそうですが、朝から本当に暑い。

外に出るだけで体力を持っていかれます。

そんな日に少し暑苦しい話をします。

生成AIを禁止している会社や団体、教育機関があります。

理由はいろいろあるでしょう。

情報漏えいへの不安。

AIが間違った回答をするかもしれないという心配。

それは分かります。

会社の大切な情報を何でも入力してよいわけではありませんし、AIの回答を確認せず、
そのまま使うのも危険です。

でも、それだけではない気がしています。

仕事中にAIで遊ぶんじゃないか。

AIに仕事を任せて、サボるんじゃないか。

効率化して時間が空いたら、無駄に過ごすんじゃないか。

そんな不安もあるのではないでしょうか。

「業務中に外部サイトを見ているだろ」

20年以上前、大手企業に勤めていた頃の話です。

ある日、部長に呼び出されました。

「業務中に外部サイトを見ているだろ。」

何のことかと思いました。

僕はシステムの修正方法を調べるために、Googleで検索して技術サイトを見ていただけです。

今では分からないことを検索するのは当たり前ですが、当時はまだ、仕事中に外部サイトを見ること自体を警戒する会社も少なくありませんでした。

しかも、当時の技術サイトにはアフィリエイト広告がたくさん表示されていました。

間違えて広告をクリックすると、怪しいサイトへ飛ばされることもあります。

アクセスログだけを見れば、

「こいつは仕事中に何を見ているんだ。」

となるわけです。

一方で、本当に仕事中にエロサイトを見て、画像をダウンロードしていた部下もいました。

その時はさすがに、

「いや、それは家でやればいいじゃん。」

と思いました。

もっとも、当時は家庭用パソコンも高く、インターネット回線も遅かった時代です。

今とは事情が違います。

ただ、時代が変わっても、会社の反応はあまり変わっていません。

昔は、

外部サイトを見るな。

少し前は、

USBメモリーを使うな。
クラウドサービスを使うな。

そして今は、

生成AIを使うな。

新しいものが出てくるたびに、とりあえず禁止する。

でも、それで問題が解決したことは、どれくらいあるのでしょうか。

ルールを作れば守るのか

もちろん、会社として最低限のルールは必要です。

顧客情報や個人情報、機密情報をAIへ入力しない。

AIの回答は必ず人が確認する。

その程度は決めた方がよいと思います。

でも、何から何までルールにすればよいという話でもありません。

僕はよく冗談で言います。

そこまでルールを作るなら、石に刻め。

小学生だって同じです。

ルールを決めたからといって、全員が守るわけではありません。

守る人は、細かく決めなくても守ります。

守らない人は、どれだけ決めても別の抜け道を探します。

ルールを増やし続けるだけでは、会社は強くなりません。

むしろ、

「会社は社員を信用していない。」

という空気だけが強くなります。

AIで空いた時間は、遊ぶ時間なのか

AIを使って、これまで1時間かかっていた仕事が10分で終わった。

すると、

「残りの50分は何をしているんだ。」

と考える経営者もいるでしょう。

その気持ちも分からなくはありません。

でも、僕自身はAIを使うようになって、仕事が減ったわけではありません。

むしろ逆です。

一つひとつの仕事を仕上げる時間が短くなったことで、扱える案件数が増えました。

ホームページを作る。

文章を書く。

画像を作る。

HTMLやCSSを書く。

提案資料をまとめる。

お客様の相談内容を整理する。

昔なら外注していた仕事や、

「そこまでは手が回らない。」

と諦めていた仕事まで、自分で対応できるようになりました。

仕事の幅が増えたのです。

そして、仕上げる時間が短くなった分だけ、以前より多くの案件を受けられるようになりました。

AIは、僕から仕事を奪ったのではありません。

僕ができる仕事の幅を広げ、扱える案件数を増やしてくれました。

AIで効率化したら社員がサボる。

そう考える会社もあるでしょう。

でも、AIがなくてもサボる人は、別の方法で時間を潰します。

反対に、もっと仕事を良くしたいと思っている人なら、空いた時間を使って新しいことを始めます。

お客様への提案を増やす。

今まで後回しにしていた改善をする。

新しい商品やサービスを考える。

それを任せられるかどうかは、AIの性能ではありません。

会社と社員の信頼関係です。

社員を疑うから、社長も疑われる

僕は基本的に性善説です。

もちろん、人を信じて失敗したこともあります。

それでも、最初から疑うことを前提に会社を作ってしまったら、働く側も会社を信用しなくなります。

監視されている。

疑われている。

サボると思われている。

そんな会社で、

「自分から考えて動け。」

と言われても、なかなか難しいでしょう。

社員を疑うから、社長も疑われる。

信頼は一方通行ではありません。

AIを禁止することが悪いとは言いません。

業種や扱う情報によっては、慎重な判断も必要です。

ただ、禁止する前に一度考えてみてほしいのです。

本当にAIが危ないから禁止するのか。

それとも、

「社員に使わせたら何をするか分からない。」

と思っているのか。

AIを使うための最低限の知識は必要です。

でも、それ以上に必要なのは、人を信じて仕事を任せることだと僕は思います。

信頼される会社では、AIは人の仕事を広げる道具になります。

疑うことから始める会社では、AIは新しい禁止事項が一つ増えるだけです。