地方企業のリアルIT相談室 第64回
1か月半前のテストメールが、突然届いた
熊本県で発生した地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
今も不安な時間を過ごされている方が多いと思います。
これ以上被害が広がらず、一日も早く普段の生活に戻れることを願っています。
7月27日、僕のGmailに一通のメールが届いた。
テスト
差出人は、以前スマートフォンのメール設定をしたお客さんだった。
何だ、これ。
メールの詳細を確認すると、作成日は6月4日になっていた。
6月4日といえば、スマートフォンでメールを受信できないという相談を受けて、設定に伺った日だ。
そのときにeM Clientを設定し、確認のために作ったテストメールだった。
ただ、僕のところへ届いたのは7月27日。
1か月半ほど前に作ったメールが、なぜ今になって届いたのか。
メールの情報を確認すると、SPFもDKIMもDMARCもすべてPASSになっている。
差出人を偽装したメールではなく、正規のメールサーバーから送信されていた。
これは、さすがにおかしい。
誰かにメールアカウントを使われたのか。
別の端末から送信されたのか。
もしかすると、乗っ取られているのか。
メールが作成された時間や、実際に送信された時間、通ってきた経路を確認した。
そして、スマートフォンに設定したeM Clientを調べて、ようやく原因が分かった。
未送信のメールが残っていた
6月4日に作ったテストメールが、未送信のまま残っていた。
普段はeM Clientを開いて、受信したメールを簡単に確認するだけだった。
受信は自動で行われるので、わざわざ手動で送受信をする必要はない。
ところが、その日に限って送受信を実行してしまったようだ。
未送信のメールが残っているとは知らずに。
その操作で、6月4日のテストメールまで送信され、僕のGmailに届いた。
乗っ取りではなかった。
原因が分かれば、何だそんなことかと思う。
でも、最初からそう決めつけることはできなかった。
今回は、たまたま送信先が僕だった。
以前自分が作ったテストメールだったから、おかしいと気づくことができた。
これが、別の相手に送る予定のメールだったらどうなっていただろう。
途中まで書いたメールだったら。
個人情報や、外に出してはいけない内容が入っていたら。
未送信のメールが送られただけでは済まなかったかもしれない。
設定した側として考えたこと
そして、eM Clientを設定したのは僕だ。
設定したときにテストメールが未送信のまま残っていたことは、僕も気づいていなかった。
実際に送受信を操作したのは僕ではない。
それでも、設定した側として、まったく関係ありませんとは言えない。
今回は被害もなく、原因も分かった。
だからよかった。
ただ、調べながら考えた。
もし本当に乗っ取られていたら、どこまで対応することになるのだろう。
パスワードを変更するだけで終わる話ではない。
ほかにも不審なメールが送られていないか。
過去のメールを読まれていないか。
取引先になりすましたメールが送られていないか。
ほかの端末にも設定が残っていないか。
被害が確認されれば、取引先への連絡や説明も必要になる。
原因の調査、設定の変更、復旧、再発防止。
当然、時間も費用もかかる。
「これでもう大丈夫ですよね」
作業が終われば、そう聞かれる。
でも、絶対に大丈夫とは言えない。
今確認できる範囲を調べ、設定を見直し、同じことが起きにくい状態にすることはできる。
ただ、その後の操作や別の端末、メールソフトの不具合、新しい攻撃まで、すべてを保証することはできない。
事故が起きた後のこと
ITの設定や保守をしていると、この問題がいつも残る。
どこまでが最初の作業なのか。
どこからが追加の調査なのか。
事故が起きたときに、誰が対応するのか。
作業にかかる費用を誰が負担するのか。
もし僕の作業が原因で損害が出たら、どうするのか。
今までは、何か起きたら、その都度できることをするという形で対応してきた。
でも、それだけでは済まない事故もある。
お客さん側のサイバー保険だけでなく、僕のように設定や保守を請け負う側も、万一に備える保険を考える時期なのかもしれない。
保険に入れば、事故が起きなくなるわけではない。
すべての責任から逃れられるわけでもない。
ただ、事故が起きた後の調査や対応まで考えると、気合いや善意だけで引き受け続けるのにも限界がある。
小さな偶然から始まる
今回は、1か月半前のテストメールが突然届いただけだった。
たまたま送受信を実行したことで、未送信のメールが送られた。
そして、たまたま送信先が僕だったから気づくことができた。
大きなトラブルは、もっと分かりやすく起きるものだと思ってしまう。
でも実際の現場では、こうした小さな偶然が重なったところから始まる。
今回は何事もなかった。
だからこそ、次も何とかなるではなく、何か起きた後の作業や責任について、一度きちんと考えておこうと思った。
